いよいよ単行本第1巻の発売が7月15日に迫った漫画版『Hero and Daughter』。これを記念し、原作者のtachi氏、漫画担当の広瀬まどか氏のおふたりによる対談を敢行! 『Hero and Daughter』誕生の経緯やコミカライズに対する想いなど、大いに語っていただいたぞ!
原作
tachi
2014年開催のニコニコ自作ゲームフェス4で自作のRPG『Hero and Daughter』が大賞を受賞。審査員・中村光一にも激賞された、コミカルなセンスやゲームデザインに定評がある。
漫画
広瀬まどか
ソーシャルゲームのキャラデザなどPCゲームのSD原画など多彩な活躍を見せる作家。氏が生み出すファニーな女の子キャラに魅了されるファンは多い。
単行本第1巻
7月15日(金)発売!!
――単行本第1巻の発売が7月15日と間近に迫りました。まず、広瀬先生が今回のコミカライズの話を聞いた際の感想をお聞かせください。
広瀬 単行本の後書きでも書きましたが、最初にお話をもらったときは「ゲームのコミカライズの話があって、すぐに始められるけどやらない?」という程度のふわっとしたものだったのですが、スケジュールは問題なかったので、「やる」とお返事しました。
tachi 受けられると決めた時点で、タイトルは聞かなかったんですか?
広瀬 はい。ゲームのコミカライズなので、ここ最近のコンシューマゲームの企画なのかな、なんて漠然と考えてました。そうしたら、まさかのニコニコ自作ゲームフェスの大賞受賞作と聞いてびっくり!
tachi いやー、それは僕にとってはラッキーでしたね。
広瀬 改めてよくよく話を聞いたら、ハクスラ系(※ハックアンドスラッシュ:主人公が敵を倒してレベルアップすることや、アイテムのドロップを楽しむタイプのRPG)だということで、ストーリーを作らなければならない! と、ここで初めて不安が頭をよぎりました(笑)。
――そこからゲームはプレーされたんですよね?
広瀬 もう、めちゃくちゃハマりました!
一同 (笑)。
広瀬 RPGをやると夢中になりすぎてしまう体質なので、ここ最近は仕事に支障が出ないようにと控えていたんですが、久々に無心でやれるRPGに出会いました。
tachi 参考までに、どのあたりがツボだったんでしょうか?
広瀬 いちばん刺さったのは、キャラクターのかわいらしさでしょうか。
tachi あの……真に受けて大丈夫ですか? 社交辞令じゃないですよね?
一同 (笑)。
――『Hero and Daughter』はゲーム的に優れているのはもちろん、そこにキャラクターの魅力も備わっているんですよね。
広瀬 ノリが軽かったのもよかったのかもしれません。勇者が現れて崇高な目的のために魔王を倒すという流れは王道ではあるのですが、これまで夢中になりすぎて支障が出るほどRPGをプレーしてきた身としては、そうじゃなかったところに意表をつかれました。
tachi ここまで軽いノリにしたのには理由があるんです。実はこの作品を最後にゲーム制作を辞めようとしていました。それで思い残すことがないようにと作ったのが本作で、登場する女の子たちも僕のさまざまな願望をしっかり注入したんです。今になって客観的に見ると、いい意味で肩の力も抜けていて、それが功を奏したのかなと感じています。
▲勇者が魔王を倒しに行くという王道の構図ながら、堅苦しくないノリのよさが魅力。
――その頃のフリーゲームは、どちらかというとホラー系が中心でしたよね。そんな中でRPGの作品を発表されたというのは?
tachi 最後の作品ということで、ジャンルも好きなもので勝負しようと思ったからですね。
広瀬 僕はフリーゲーム界隈はあまり明るくないんですが、ホラー系のゲームがトレンドだったんですか?
tachi はい。そういった流れを意識せず、最初は自分の作品を見てもらうべく大学時代に作ったゲームをネットに公開したんですが、まったく反響がなかった……。
広瀬 それは辛いですね……。
tachi それで初めて市場調査的なことをしたら、実況動画でホラー系がすごく盛況で、そこに需要がありそうだと感じたんです。自分にとって未知のジャンルではありましたが、できるだけ多くのユーザーにプレーしてもらいたいとの思いからホラーゲームを作りました。
――すぐに結果は出たんですか?
tachi 明らかにダウンロードの数字は変わりました。このままゲームを作り続けていれば、いつか評価されてなにか起きるんじゃないかと思っていましたが、2年ぐらいはニートでした。家族には白い目で見られるし、きつかったですね。だからもう、次作を最後にしようと……。
――そんな決意の中で、『Hero and Daughter』が生まれたわけですね。
tachi トレンドであったホラー系ではないのに、これまでの倍以上の方に認知してもらえました。「逆ホラー」と名づけて僕なりにトレンドに対して綿密に考え抜いた前作『月光妖怪』よりも、まったく肩の力を抜いて作った『Hero and Daughter』のほうが高い評価をいただけたのは本当に不思議。確証はないですが、自分をさらけ出したのがよかったのかなと自己分析しています。
――そして、ニコニコ自作ゲームフェスで大賞を受賞する、と。
tachi もうそれは運がよかったとしか言いようがない。自分としては、ただ"好き"を一生懸命に込めただけだったので。
広瀬 そのシンプルな考えがよかったんだと思います。今の時代、なにをやるにしても自分の好きなものをやらなきゃダメですよ。
tachi はい、僕もそう思いたいです。
――そうした経緯の末にコミカライズもされたわけですが、いかがでしょうか?
tachi 周囲の方に感謝するとともに、これも運がよかったと思ってます。広瀬まどかさんに着手してもらえたことも光栄でした。
――漫画を描く広瀬先生としてはいかがでしょう?
広瀬 漫画用のキャラクターデザインをする際に、tachiさんからは好き勝手やっていいと言われていたんですが、本当にどこまで自分の絵に近づけられるのかを見極めるのが大変でした。そのためにチェック用として最初に描いたのがシルトだったんです。これがやっちゃいけない線の境界になるだろうと。
▲広瀬さんによるキャラデザカットを公開! シルトはデザイン時ハルバードらしきものを持っていた!?
tachi へー、なるほど。
広瀬 キャラクターをお借りしている以上ヘタなものは作れない、というのが前提にありますから。
tachi そういえば、登場キャラクターの選別はどのように?
広瀬 先に全体のプロットを作って話の流れを構築して、その中でバランスよくなるよう選んでいます。たとえば1巻の登場キャラでは、王道的ヒロインのキャラクターとそれ以外のキャラクターをバランスよくなるよう全体から選びました。なので、ゲストキャラはあまり出番がない状態で、そこがちょっと悩みだったりもします。
tachi でも、バランスはすごくいい。結果的にシルトもいい具合のアクセントになってますしね。
広瀬 シルトはRPGの王道キャラですね。そんなキャラがいる中でフェリーチェのような「なんだこいつ」的なキャラもいたり。
tachi そうそう。でもフェリーチェは原作の200%増しと言ってもいいぐらいかわいい。あと、ララもすごくイキイキしてる。ララは僕自身でも扱いに困るぐらい動かすのが難しいキャラなので、漫画を読んで「うまいな~」と感心しています。
▲第6話から登場するフェリーチェ。個性のなさに悩む彼女に個性付けをしてあげようと皆で奮闘するが……。
広瀬 ゲームだとどのキャラも平等に扱わないといけないですからね。漫画のほうではララをメインヒロインに置くことで、逆に使いやすいキャラクターになりました。
――ララは女子高生なのに強い、というギャップ的な魅力もありますね。
広瀬 中世風ファンタジーな世界の中で、一番最初に出てくるのが制服の女の子という意外性があるおかげで肩肘張らずにゲームの世界に入れる。彼女は、『Hero and Daughter』の世界観のノリを体現しているキャラだと思います。
tachi いやー、理解を深めていただけてありがたいです。僕自身のほうがよくわかってないかもしれない(笑)。
▲第1話で勇者を助けるために颯爽と登場するララ。勇者よりも強い!?
――tachiさんは、コミック版で好きなシーンとかありますか?
tachi やっぱ水着回じゃないですか(笑)。ゲームにはない一線を越えた感じと、純粋なかわいらしさが引き立つ広瀬先生の絵が相まってよかった。
――この回は読者からの声でもかなり評判でした。「ヌキました」なんて声もあったぐらいで。
tachi 僕も半分ヌキかけましたよ。
一同 (笑)。
▲読者からも多くの反響が寄せられた、全編にわたって水着の女の子がキャッキャウフフする水着回。
広瀬 水着回は第8話ですが、ここまでの7話でキャラクターをつかめてきていたという面がありました。どういうものをこの漫画でやればいいのかをわかってきた中で、僕自身が遊びたかった回なんです。自分の好きをぶつけて描いた回なので、これが気に入っていただけるのなら、うれしいですね。
tachi 今後もコミック版は、このノリでいっていいんじゃないかなと思いますよ。
広瀬 元がハクスラ系とはいっても、敵を倒したりばかりではなく、たまにはこういうのもいいですよね。遊んでばかりじゃいけないですが。
tachi 『Hero and Daughter』というゲームは、数字を高める部分に快感を覚える人、女の子の好感度を上げる会話イベントに夢中になる人、ユーザー層が大きくふたつに分かれると思うんです。それを踏まえると、今回のコミック版のメインターゲットは後者なんじゃないかな、と。
――『Hero and Daughter』のキャラクターに魅力を感じた人に向けた漫画にするのが理想?
tachi そうですね。水着回なんか完全に脇に逸れていますが、それがゲームにはない部分でもあって非常にいい。もちろん、ハクスラな部分がきちんと描かれてこそですが。
――本筋から脱線しすぎないように、という部分は忘れないようにしています。
広瀬 先に全体の流れを作っているので、脱線しすぎてしまうと収拾がつかなくなる恐れがありますからね。単行本に収めることを考えると、全体のボリュームも考えなければいけませんし。
tachi ああ、なるほど。僕が好き勝手にどうぞと言っても、簡単にはいかないんですね。ただ現在のところ、原作者である僕自身が楽しめているので、このまま突き進んでほしい。
広瀬 ありがとうございます。とりあえず、第2巻のときにはもう少し遊びを多めに入れられるようにしたいと思います(笑)。
――その他の読者の声を見ると、キャラクターのかわいさ、漫画ならではの展開の早さからくるおもしろさを挙げる方が多いですね。あとは登場してほしいキャラクターのリクエストもいただいています。
tachi 登場キャラのリクエストは、僕がツイッターで呼びかけたんですよ。
――ヘイティ、赤の魔女あたりが目立ちますね。
tachi ヘイティは僕のブログでの評判を見ても、人気のあるキャラクターなのかな?
広瀬 それぞれストーリー上では少し先で登場するキャラクターなので、出せるところまで連載を続けたいですよね(笑)。
▲第2巻では新たな魔王の存在も!? 乞うご期待!!
――では、最後に『Hero and Daughter』の展望をお聞かせください。
tachi コミカライズの次、と言ったらあとはアニメ化じゃないですか?(笑) すっごく気に入っているこの漫画のストーリーで、もしそうなったらそれはうれしいですね。
――お、言っちゃいましたね。
tachi 漫画はひとりの読者として非常に楽しませてもらっていて、あくまで読者としてそうなってくれるといいな、という願望ですね。
広瀬 なんか恐縮です……僕も微力ながら頑張ります。
――大きな要望をいただきましたが、実現を目指すためにも、今後とも『Hero and Daughter』への熱き応援、どうぞよろしくお願いします!
単行本第1巻お買い求めはこちら!!
最新話掲載日:2016/02/04
『Hero and Daughter』
漫画:広瀬まどか
原作:tachi